【文鳥防災】在宅避難編―文鳥と一緒におうちで避難
トップ画像:研究室(弥富市歴史民俗資料館)で講義するぶんちゃん先生(@yatomi_rekimin)
今回の文鳥防災は「在宅避難編」と題して、災害発生直後からインフラ・物流復旧までの避難生活について考えてみましょう。
飼い主は人間用の備えに加えて、文鳥用の備えも考えなくてはなりません。災害に備えた意識を高く持って、危機が訪れる前に備えを整えておきましょう。
なお、前回の文鳥防災では「災害発生時編」として、災害発生の瞬間に焦点を合わせた備えを検討しました。こちらもあわせてご覧ください。
文鳥防災「基礎知識編」のおさらいですが、ペット防災においては住み慣れた自宅で避難生活を送る「在宅避難」をできるように備えを考えていくのが原則です。小学校の体育館など、多くの人が集まる避難所にペットを連れていくことは、どうしてもトラブルの原因になりやすいからです。
また、在宅避難は人間にとってもペットにとってもストレスが少なくなります。ストレスが低減されるということは、病気にかかるリスクが低減されるいうことでもあります。
文鳥をはじめ、鳥類用の医療サービス・医薬品供給が回復するのは相当後になるでしょうから、災害時に病気になってしまうことは致命的です。
自宅の安全が確保される限りは、在宅避難を検討しましょう。
防災備蓄の基本は「水・食料・トイレ・電気」
在宅避難の備えを検討するため、まずは人間用の防災備蓄の基本を確認しましょう。
防災備蓄の基本は「水・食料・トイレ・電気」の4つです。
「ウチは防災備蓄してるよ」という家庭でも「水・食料」までで終わっていることが多いのではないでしょうか。ぜひ「トイレ・電気」まで備蓄しましょう。
「トイレ」の備蓄とは、水を使わない簡易トイレを備蓄するということです。例えば次のようなものですね。
「トイレは近所の公園の公衆トイレを使うから大丈夫」といった想定をしている方もいますが、実際に災害が発生すると、公衆トイレは長蛇の列となります。しかも掃除する人がいませんから、衛生問題・悪臭問題が起きることになります。
やはりトイレは自宅のものを使いたいわけですが、水洗トイレを備蓄している保存水で流しているとあっという間に保存水がなくなります。
保存水を節約しつつ衛生的な環境を維持するために、簡易トイレが必要になります。
次に「電気」ですが、これは主に照明と通信のために必要です。
ロウソクなどの火を使う照明は火事の危険があります。特に地震災害の場合、しばらくは余震が続きますから非常に危険です。LEDランタンのような、電池やバッテリーで動く照明が望ましいでしょう。
また、スマホのバッテリーを充電し続け、通信を維持することはさらに重要です。リアルタイムの情報を入手することで不足する物資・支援を調達しやすくなりますし、こちらから助けを求めてSNS等で発信することもできます。
このように、「水・食料」だけでなく「トイレ・電気」まで備蓄することが大切です。日数の目安としては、「最低でも3日分、できれば7日分」と言われています。
東日本大震災では466万戸が停電し、80%の復旧まで3日かかりました(完全復旧は約3ヶ月後)。熊本地震では48万戸が停電し、約5日後に電気が復旧しました。
つまり、「最低でも3日分、できれば7日分」というのは、「最初のインフラ復旧までを耐える」目安になっているわけですね。
文鳥との在宅避難への備え
防災備蓄の基本を踏まえて、具体的に文鳥との在宅避難のために備えておきたいものを検討していきましょう。
前回の文鳥防災「災害発生時編」と重なるグッズも多いですが、おさらいの意味も込めて改めて解説していきます。
1 療法食、薬
環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」の中の「ペット用の備蓄品と持ち出す際の優先順位の例」という項目において、優先順位の第一位にあげられているのが「療法食、薬」です。
人間用の医療サービスは災害発生直後から優先的に供給されますが、ペット用の獣医療サービス、中でも鳥となると、かなり後回しになります。
ということは、飼い主の責任で備えておくしかありません。「最低でも1週間分」という声もありますが、大規模災害において1週間で鳥用の薬が供給されるとは考えづらいです。2週間分以上が望ましいでしょう。
2 保存水
文鳥は飲み水に加えて水浴びのために保存水が必要になります。
文鳥にとっての水浴びは、衛生状態を向上させ、運動不足を解消し、さらにストレスも解消するという重要な役割があります。
参考:文鳥と水浴び
既に述べましたが、災害発生時に文鳥が体調を崩すことは致命的です。出来る限り水浴びも続けさせてあげられるように、保存水は余裕をもって備蓄しましょう。
とはいえ、小さな文鳥が1日に飲む水の量は僅少ですし、水浴びに使う水量もたかが知れています。基本的には人間用の保存水備蓄を多めに行っておけば問題ないでしょう。
備蓄量については、「大人1人あたり、1日3リットル」が目安とされています。3日分であれば9リットル、7日分であれば21リットルの水があれば、大人1人が暮らせるということになります。
人間用に7日分の保存水備蓄があるのであれば、文鳥の水問題は充分に回避できるでしょう。
3 餌(シード・ペレット)
水の次は餌が必要です。普段食べているシードやペレットを備蓄しておきましょう。
といっても、在宅避難を前提とすれば、餌はそれなりに買い溜めている家庭が多いと思います。餌を買い足すタイミングがいつもギリギリの飼い主さんは、そのタイミングを早めにするだけで、立派な防災備蓄になります。
備蓄量については、水と違って餌の供給には時間がかかるであろうことを想定すべきです。水は人間が必要としているので復旧の優先度が高いです。水道の復旧も急がれますし、給水車等での輸送も早い段階で始まります。一方で、鳥の餌は一般的な物流が復旧するまで入手困難になるでしょう。
こうした事情から、「1ヶ月分」を目安にあげる文献が多いようです。
なお、餌は水に濡れると使えないため、保管場所に注意が必要です。密閉容器に保存したり、1階と2階に分散して保管したりできるとより良いでしょう。
4 ウェットティッシュ
人間用の防災備蓄でいうところの「トイレ」に相当する備えです。フンの掃除やケージの清掃は必須ですが、貴重な水を使うのは避けたいところです。
ウェットティッシュを備蓄しておけば、文鳥の生活環境を衛生的に保つことが出来るでしょう。もちろん、人間用の防災備蓄としてもウェットティッシュはかなり便利です。
人間の数、文鳥の数を考慮して、多めに備蓄しておきましょう。
5 スマホが充電できる電源
防災用のソーラー電源など、スマホを充電できる電源を備蓄しておくことは、文鳥の防災のためにも重要です。
通信ができれば、餌の不足や薬の不足について情報発信し、近隣の被災者どうしで融通し合うことができるかもしれません。近所の獣医さんが診察を継続してくれていれば、スマホでその情報もキャッチできます。
また、万が一文鳥が迷子になってしまったときも、スマホが使えれば迷子情報をすぐに拡散させることもできます。
6 明かり(LEDランタン)
一般に、飼い鳥の食欲がない時に、夜も照明をつけ続けて餌を食べるように促したりします。
災害発生による環境の変化を敏感に感じ取り、一時的に文鳥の食欲が落ちてしまうことも充分あり得ます。
文鳥の近くで火を灯すのは危険ですから、電気式の照明が必要になります。
7 使い捨てカイロ
真冬の被災や体調を崩した文鳥の保温用に、電気やガスといったインフラに依存しない保温器具の備蓄があると安心です。
密閉した場所で使用した場合に酸素が低減するリスクがあるため、使用には注意が必要なものの、最も手軽なのは使い捨てカイロを備蓄しておくことでしょう。
電気が復旧すれば通常のペットヒーターが使えるようになりますから、これも1週間分の備蓄が目安になるといえます。
備蓄品はどこに保管するべき?
さて、ここまで具体的な備蓄品について確認してきました。
つぎの問題は、これらの備蓄品を家のどこに保管しておけばよいのかということです。
まず注意が必要なのは、屋外の物置や車のトランク、直射日光の当たる場所などは備蓄に適さないという点です。特に薬や食品などは変質してしまうため、使えなくなる可能性もあります。望ましいのは「直射日光の当たらない常温」での保管です。
ということで、基本的には家の中で収納スペースを確保しなければなりません。その際のコツは、「無理に一箇所にまとめて保管する必要はない」ということです。
家の中のちょっとしたスペースを有効活用し、分散して保管することはリスクの分散にもなります。床上浸水や家具の転倒などがあっても、分散保管されていれば全滅は回避できるでしょう。
実際、農林水産省は保存水の分散収納を推奨しています。
他にも、「防災備蓄 保管場所」で検索すれば様々なテクニックが紹介されているので、ぜひチェックしてみて下さい。
餌(シード・ペレット)がなくなってしまったら
備蓄していたシード・ペレットを使い切ってしまったり、水没等で失ってしまった場合には、非常用として人間の食べ物を与えることになります。
文鳥のような小型の鳥は、鳥類の中でも特にエネルギーの貯蔵量が少ない傾向にあります。食料の欠乏から餓死までの時間が短いため、緊急時には人間用であろうと食べさせて続ける必要があります。
参考:文鳥とダイエット
コンパニオンバード No26の特集記事「鳥のいるおうちの災害対策」によると、「生米」や「雑穀」があればベストですが、「白飯を乾燥させて硬くしたもの」や「乾パン」「普通のパンを乾燥させたもの」でも大丈夫なようです。
クッキーやビスケットのようなものしかない場合でも、できる限り表面の塩などを落としてからなら与えられます。
見慣れない食べ物を怖がる場合は、細かく砕くなどの工夫をして食べやすくしてあげましょう。
車中避難における注意
在宅避難のバリエーションの一つに車中避難があげられます。自宅の安全が確保されるまで、避難所ではなく車で宿泊する方法ですが、車中避難には注意点もあります。
第一は、熱射病の危険です。日中の車内はたとえ曇りの日でも思わぬ高温になることも多く、換気と水分補給に注意が必要です。頻繁に窓を空け、飼い主も文鳥も水を切らさないように注意しましょう。
参考:文鳥と熱射病
また、当然ではありますが、車に文鳥を置いたまま出かけるのはやめましょう。人間でも車中への赤ちゃんの置き去りによる悲惨な事件が発生しています。
第二は、飼い主のエコノミークラス症候群の危険です。定期的に外に出て運動をしたり、こまめに水分を取って血流を良くしましょう。
まとめ
今回は文鳥防災の「在宅避難編」ということで、自宅で避難生活を送るための備えについて学びました。
繰り返しますが、在宅避難ができればペット防災にまつわる多くの問題が解決できます。そして在宅避難できるか否かは、飼い主が前もって準備していたかどうかにかかっています。
ぜひ本講義を参考に、自宅の備蓄を進めて頂ければと思います。
次回は、自宅の安全が確保できない場合を想定した「避難所避難編」になります。
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